toyotaidの日記

林住期をタイで過ごしています。ここをベースとした旅を綴ります。

2023 古稀のバックパッカー ②再びインドへ

ニューデリー駅前

 AI333便はベンガル湾を越えてカルカッタからインド大陸を西に向う。遠くにヒマラヤの山並みが見えるかとずっと眺めていたが、眼下は雲海だった。ニューデリーは久しぶりだ。といっても街は近代化。地下鉄に乗ってニューデリー駅到着までの風景は本当にインド?とさえ思った。昔の面影はまったくない。

 駅前に足を下ろし、格安ゲストハウスを探し始めると、昔の記憶が蘇ってきた。ウロウロしていると、「どこに行くのだ」。至るところで声がかかる。リキシャだけでなく、チケット購入手伝いなど、外国人とみると寄ってくる。なんか懐かしい雰囲気に思わずホッとした。最初にインドを訪れたのが40年前、世界は大きく変わった。だけど、このインド独特の空間、人の繋がりは相変わらずだ。

 人の多さ、クラクション、罵声。何なんだろう。齢を重ね、管理された社会に抵抗を持つ僕にとっては、洗練され、無表情の人が行き交う街より、この混沌、喧騒が似合う。一人旅をしていても毎日の会話には困らない。困っているように見える人がいると近づいてくる。助けるような仕草に思わずホッとする。それが、嘘をつかれ、騙されようとも。

 ニューデリーでの今日の重要な仕事は、ただ一つ。シク教の聖都、アムリッツァまでの列車チケットを確保すること、そして暑さの中でビールを飲める場所を探すこと。

 「駅に向かって右側を線路沿いに歩いて行くと列車予約センターがある」とゲストハウスで教えられ、その建物に入ろうとすると「入り口は閉まっている。線路に沿って次の角から入れる」と方向を示すインド人のオッサン。言われるままに次のコーナーまで歩き、角で屯する人に「予約センターはどこ?」と聞いたとたん、さっきのオッサンが突然後ろから現れ、「連れて行ってやる」。僕を誘導する。ここまでは、「親切なオッサン」と思っていたが、彼が導いてくれる道は線路沿いを外れ、商店が立ち並んでいる方向に向いてる。ここで、僕の頭が通常モードになってきた。「おそらく、別の旅行代理店にでもつれていき、発行手数料を取ろうとしているかも」と思うようになり、さっきのところに引き返そうとすると、オッサンはこう追加した。「事務所はすぐそこ20mの角だ」「暑いが部屋はクーラーが効いている」と僕を引き留めようと必死に喋る。こうなると形勢は逆転する。彼の考えていることが見え見えになる。なんとか引き留めようとするオッサンに、「ありがとうよ」といって踵を返す。

 再び予約センターに行くとやはり開いていた。天下のニューデリー駅予約センター。ただし閑古鳥が泣いているような状況で、閉まっていると勘違いされても仕方がない。外国人用のカウンターの中で駅職員は暇そうにしていた。過去、インド国内で列車のチケットを買うには長蛇の列に並び、間に割り込まれないように肩肘を張ってたことが嘘のようだ。おかげで明日のアムリットサリまでのチケットは簡単に購入できた。チケットを持ち、路地でチャイ(ミルクティー)を注文、ゆっくり呼吸し、考えた。

アムリツァル行きインド鉄道チケット

 

 あのオッサンの騙し方。状況を分析し、人の動きを観察しながら、経験に基づいて臨機応変に行動している。あの日、あの時の僕との出会い。瞬間判断で、デマカセがすっと出てくる。やはりインド人はすごい。百戦錬磨かもしれない。これが彼の仕事でもあり、糧を得ているのだろう。日本人からすれば、この現象をインド人の性悪説やら貧困問題まで結びつけさまざまなを解釈をしてしまう。一方、こんな発想しか出来ない自分を情けなくも感じる。なんとかしてインド社会、哲学を納得しようとする自分の理論領域の狭さに悩んでしまう。

 古稀を迎えた自分。注文したチャイの甘さを感じ、我に戻った。「まあそんなに深刻に考えるなよ。これからパキスタン、中国をまわるともっと色んなことが起きるよ」。

タビの一日目がスタートした。

素敵なラベル。キングフィッシャービール