toyotaidの日記

林住期をタイで過ごしています。ここをベースとした旅を綴ります。

2023 古稀のバックパッカー㉓ タクラマカン砂漠に沿ってホータンに向かう


カシュガル(喀什)からホータン(和田)へ

シルクロード

 監視の目に悩まされたカシュガル。でももう一度行きたい街であることは確かだ。中国というよりエキゾチックな雰囲気に魅了される。漢人の国内観光客もウイグル貸衣装を身につけ、写真を撮ったり、異国情緒ある街並みをぶらりと歩いていた。買い物型から体験型の旅行が中国国内でも展開し始めている。漢民族がここの民族文化にもっと触れることが増せば観光を通して人々の『多様性の尊重』が進み、理解し合えるかもしれないと思いながらカシュガル駅に向かう。

カシュガルからホータンへ

 列車はカシュガル10:43発、ホータン到着15:30のT9531号。10時といっても北京時間だから3時間の時差がある。駅に向かって宿を出た時は薄暗かった。


いよいよ新疆ウイグルの動脈の「天山南路」を外れ、玄奘が通った「西域南道」に入っていく。目指すはホーテン(和田)。その距離は488km。世界第二の流動性砂漠であるタクラマカン砂漠の南縁に位置する。『流動性』という単語は、この砂漠が時代によって動き地形が変化しているためだ。居住地だけでなく、川や湖も移動している。井上靖の「桜蘭」でその様子が描かれている。春から夏にかけて起きる猛烈な砂嵐をはじめ、常に風の力によって砂が舞っている。タクラマカンウイグル語で「一度入ったら出られない」という意味だそうだ。昼は40度、夜には零下20度にもなる。この砂漠に沿って歩き始めるのだと思うと、洋の東西を繋げた過去の歴史と壮大な自然を目の前にしてワクワク感が湧いてくる。

 列車の車窓に入ってくる景色は、喜多郎の曲「シルクロード」にあるゆったりとしたイメージとは異なった。右手に広がる崑崙山脈、そして左手にはタクラマカン。広大な砂地がどんどん拡がっていくが、砂が視界を遮る。日本の黄砂のような現象がずっと続く。

砂によって視界が悪い

 砂で線路が埋まらないように線路脇植物のアシで防砂・流砂処置が工夫されている。湿地に生えるアシが、乾燥した砂漠でも大きな役割を発揮し、「流砂固定」の材料となっている。アシの茎を乾かし砂丘に運び、1メートルの正方形を作り路線の両側に置く。「草方格」と呼ばれる。その敷設は鉄道や道路建設と同時に行われる。草方格が砂丘に敷かれていると、砂が吹き飛びにくくなるためだ。(参考:Sicence Portal China より)

アシによる「流砂固定」

 列車は定刻にオアシス都市のホータン駅に到着した。ここは漢・代の中国では「于窴(うてん)」として知られていた仏教王国だった。西暦 644 年。玄奘は、ここに数ヶ月滞在したと言われる。出国禁止の中をインドに向かい、唐の太宗からの帰国の許しが出るのをここで長く待った。彼が持ち帰った仏典の数は657部、馬を利用したが、この砂漠にはいり数十頭に及ぶラクダのキャラバンとなった。僕は快適な列車のタビになったが、移動だけでも大変だっだろうと広大な風景を見ながら想う。

 町外れに大きく建てられたホータン駅から移動中にアプリで事前予約したホテルに向かう。ところが、僕が予約書を提示すると、「部屋がない」と言っている。説明が中国語でされるが理解できない。「宿泊できない」のだろう。今回のタビで二度目(最初はパキスタンペシャワール)のドタキャンだったが、まだ日も長いのでわりと落ち着いていた。ペシャワールの時は一時的にテロ情報から一斉に外国人は止められないと説明があったが、今回の受付は「部屋がない」と一点張り。マネージャーを呼んでもらい、予約番号や日時を丁寧に説明した。翻訳アプリを通して少しずつ内容がわかってきた。「このホテルは外国人を宿泊できる資格がない」とのこと。高級ホテルではないが、6階建ての三つ星ホテルとされており、価格は3000円程度だった。Tripという旅行予約Webサイトも当てにならない。なんだかんだと言っているうちに、このあたりを管轄にしている警察が入ってきた。彼は、ホテルのコンピューターを操作しはじめた。そして、「このホテルには外国人は泊まれない」という。警察官が確認したのは、『外国人の宿泊者を登録するときに使うネットシステム』の登録末端がこのホテルにあるかどうかだった。中国国内のすべての宿泊施設は外国人を泊めるときに、このシステムを使ってパスポートにある顧客データをすぐに国に登録しなくてはいけないという法律があるようだ。それができない。カシュガルの青年旅舎でも直ぐにチェックインできなかったのはこのシステムを通して前日のチェックアウト処理がされてなかったことが原因だったことを思い出した。この国の外国人の移動はリアルタイムですべて管理されているこのシステムのことがだいたい理解できるようになった。中国語で外宾(wàibīn)と内宾(nèibīn)というらしい。外宾というのは「外国人客」。内宾で「国内客」。予約サイトに内宾と書かれていれば泊まれないことが確認できるらしい。結局、警察官が、近くで宿泊できる宿を紹介するということで落ち着いた。「ただし、このホテルより安いところ」と条件付きの要望をお願いする。彼の車で連れて行ってもらう。無料。恐らく訳のわからない外国人へのサービスだろうが、こんな警察の利用方法もあるのだと考え始める。

予約したが宿泊できないホテル

 ところで、登録末端をここ程度のホテルなら設置するのがなぜできないのだろう。もっとチープな青年旅舎の多くは海外向けの宿泊予約アプリには登録されているのに。旅館側も外国人を泊めればお金が入るので泊めたいはずだ。何か基準に満たないのだろうと勘ぐってしまう。そういえば、対応を待っている間にホテルのロビーの奥の部屋に「卡拉OK:カラオケ」看板を見かけた。おそらくこうした施設があるところは登録させないのだろう。共産党政権は特に外国人に対して見せたくないものには蓋をしたがる。

ウイグル人女性(列車の中で)

 夕方になり、ホテル周辺をぶらり歩いてみる。駐車してある車は砂を被っている。やはり砂漠の中にある街だと実感する。公務員や警察官などは漢人だが、街を行き交う人の顔はウイグル人。大きな街で、人口は40.89万 (2018年wikipedia)のうち90%を超えるウイグル族と言われている。興味ある資料を見つけた(西日本新聞)。ホーテンの漢民族ウイグル族の人口増加率が下がっている。2019以降の人口統計は発表されなくなったが、増加率は漢人に比べ大きく下がっていると記事には掲載されている。この数値はウイグル族の人口抑制が意図的にされているのではないかと予想される。

民族別ホータン人口増加率(西日本新聞より)

 さて、明日から定番の博物館訪問、そしてホーテンといえば有名な「白い翡翠」の現場を歩いてみる。