toyotaidの日記

林住期をタイで過ごしています。ここをベースとした旅を綴ります。

2023 古稀のバックパッカー⑮ カルガー磨崖仏

ギルギットは、今はイスラム社会だが、6世紀、玄奘が訪れた頃は仏教の中心地であったことは確かだろう。

 その証拠を確かめるためにカルガー磨崖仏へ足を伸ばす。距離は約6キロ。相変わらず一般車とタクシーの区別がつかないので、大きな通りの三叉路に立っていた警察官に、「バイクタクシーを捕まえて」とお願いする。ダメ元だったが、彼は無線機を使って何やら喋っている。5分ほどしてバイクが来た。地図を見せながら、交渉するが海外からの観光客とみてか、法外な値段を提示する。交渉が長引くうちに徐々に人が集まる。呼んでくれた警察官も来る。他のバイクタクシーも寄ってくる。そんな中で英語ができる観客の一人が、「あのバイクは半額で行くと言っているよ」と指をさす。僕は最初のバイクの運転手と交渉を諦め、次のバイク野郎に乗り換える。出発するまでに15分はかかったかな。この世界では、どうも時間がない方が負けになるような気がする。需要と供給は一対一交渉より多数を巻き込んだマルチの方が周りの観客のヤジで地元の適正な価格になるようだ。

 玄奘が書いた「大唐西域記」(水谷真成訳)によると、ギルギットは当時、鉢露羅(パローラ)の名で紹介されている。「鉢露羅国は周囲四千余里、大雪山の間にあって東西は長く、南北は短い。‥‥‥伽藍は数百ケ所、僧徒は数千人いる」。東西に長くというのがおそらく昨日、僕がシャンドゥールからギルギット川に沿って降りてきた道だろう。カルガー磨崖仏は地上から30メートルの高さにありにあり、仏は4mぐらい岩をくり抜いて作られている。

カルガー磨崖仏

 正立像。少し丸い穏やかな顔と身体つき、耳たぶが大きい。右手のひらを見せ、左手も手のひらを見せ垂らしている。施無畏印与願印と言われ、「恐れることはありません。願いを受け止めます」という意味を持ち、遠来の客を迎えるようにギルギット川の上流を見渡している。作られたのは7世紀、復路にここを通った玄奘はこの磨崖仏を見ただろうか。

 数百箇所あったと言われる伽藍(がらん)とは、僧侶が集まり修行する場所の意味であり、寺院または寺院を表す。今回の旅でその遺跡らしきところを探し出すことはできなかった。それにしても磨崖仏はイスラム社会となって長年、壊されずに残ったものだ。

仏はギルギット川に沿って遠来の旅人を見つめる

 この州はギルギット・バルティスタン州と呼ばれているが、実は、パキスタン憲法ではパキスタンの一部として扱っておらず、法的には自治政府ではない。ここにカシミール問題が出てくる。

 カミール問題の発端は1940年代にまで遡る。当時、ジャム・カシミール州は藩王国の一つであったが、分割計画と1947年のインド独立法によって、インドまたはパキスタンへの帰属を自由に決めることができるようになった。ジャム・カシミールの住民のほとんどはイスラム教徒であるが、藩王自身はヒンズー教であることから、インドへの帰属を決めた文書に署名した。しかしその後、この地域はパキスタンが実効支配するようになり、時々紛争がある。3年前の2021年にパキスタンのイムラン・カーン首相が地域から準州への格上げを表明したが、憲法改正を要する。地域議会は準州昇格の支持を表明したが、カーン首相の退陣により、憲法改正プロセスはストップしたままだ。

 

 やはり紛争地域なので、僕もなにかあった時のために予備知識を入れていたが、実際にギルギットを訪ねるとそれほど緊張感は感じなかった。ただ、ゲストハウスのオーナーと話していて、「昔は日本人旅行客がたくさん来てくれたが、コロナも含めて最近はほとんど見なくなった」と嘆いていた。理由は僕も分からないが、アフターコロナ以降、円安経済や政治不安定となり、グループツアーの日本人の姿は一度も合わなかった。時代は変わり始めているのだろう。

ギルギット。州都だけあって市場にはたくさんの果物、野菜が並ぶ

 この町に2泊3日滞在し、次はフンザに向かう。「風の谷のナウシカ」の舞台ではないかと言われている。バスターミナルに行くと、乗り合いワゴン車が待っていた。乗客が一杯になったら出発するいつもの交通手段。ほとんどの人がこの車で移動するが、あえて、僕はイスラマバードからフンザに向かう大型バスを待った。ここで降りる客がいるはずだから、空いた席に座れたら良い。チトラル以降、ジープの長旅で膝に負担を掛けたくなかった。バスならゆっくり足を伸ばせると考えたのが正解だった。バスステーションで1時間ぐらい待ったら大型バスが到着した。運賃はワゴン車より高い。支払いは運転手に直接払い、OKをもらった。さてこのお金はバス会社それとも彼の懐に? フンザまで100キロ程度。一時間半のタビは快適だった。

久しぶりに大型バスに乗ってフンザへ向かう