toyotaidの日記

林住期をタイで過ごしています。ここをベースとした旅を綴ります。

2023 古稀のバックパッカー⑳ シルクロードの要所 カシュガル(喀什)へ

 国境の町、タシュクルガンからタリム盆地最西端の街カシュガル喀什)に向かう。中国人たちは「カス」と呼んでる。古代には疏勒(そろく)と言われ、シルクロード南路の要所となるオアシス都市。僕が通ってきた路を玄奘も降りてきた。大唐西域記では佉沙国と記している疏勒。玄奘仏教が盛んな国であると記述している。

7世紀時代、大唐西域記の地図(wikipediaより)

 現在、新疆ウイグル自治区の州都はウルムチ。だが、ここが本当の新疆の文化、歴史の中心かもしれない。僕は、カシュガルが過去においても現在においても西域を代表する町のように感じる。同じ宿に泊まっていたウルムチから来た青年がこう語った。「夜行列車で一日かけてカスに初めて来たけど、驚いた。ウルムチ漢人社会。ここはウイグル人が圧倒的に多いし雰囲気が違う」。僕も数年前にウルムチを訪れ、やっと新疆に来たと思っていたが、今回カシュガルを訪れ、街並み、人々、自然の違いを感じる。これまで持っていた「シルクロード」というイメージが浮かび上がる。中国国内かもしれないが、明らかに違う文化圏だろう。

 

 カシュガルまでは中国側カラコルムハイウェイで300キロのタビ。タシュクルガンからは毎朝バスが出ていると聞いたが、バスステーションは閉ざされ、そのような気配はない。乗り合いワゴン車が出ていると教えられ、北京時間朝9時(といってもまだ太陽は登っていない)から待っていた。満席にならないと出発しないのは、パキスタンと同じだ。徐々に乗客が集まり、10時すぎにカシュガルに向けてエンジンがスタートした。7人乗り。座席数しかお客は取らない。パキスタンならこの2倍は乗せるだろう。道路の舗装状況も良いのでこれなら楽チン。道中の苦しさを事前に予想し、準備する必要はない。中国は管理社会で厳しいと言われるが、この辺境でも交通規則は徹底されている。

タクシュクルガンからカシュガルへ乗り合いワゴン車7人乗り

 パミール高原の中を車は快適に進む。約100㌔走った後、右手にカラクリ湖が見えてきた。「カラクリ」は「黒い海」を意味するが、山々の白と青空が水面を彩り、風光明媚なところと言われ、多くの観光客が訪れるらしい。富士山頂上の標高3600mにある天空の湖。周囲は6000m以上の山に囲まれ、氷河の水が流れ込んでいる。湖の近くに集落地(村)がないため透明度もある。残念ながら、僕らの乗り合いワゴンは観光のための車ではないので止まってくれない。車窓から眺めるのみ。その代わりでもないが、途中二回、検問所でストップ。外国人の僕だけ車から降ろされ、パスポートを持って事務所に入っていかなければならなかった。その度に辺境通行許可証を持っているかと聞かれる。そんなものは持ってない。聞くと旅行などでカシュガルからタシュクルガンに行く人には辺境通行書なるものがいるらしい。パキスタンから越境してきた僕はそれを持ってないので、通常より時間がかかる。係官が本部と連絡取って確認後、最終的にはOKと言われる。さすが管理社会。

ラクリ湖(車が停車しないためにWikipediから写真を借りる)

 雪を被った山岳地帯から風景は徐々に変化しタリム盆地の端に入った。町の郊外は乾燥した平坦地。人口百万を超えるオアシスの街カシュガルだ。時計は午後2時をまわっている。ワゴン車がこの街のどこに到着するのかわからない。町の端に止まり、皆降りろと言われたが、3人がどうも約束の場所と違うと言って、運転手と揉めている。僕も街の中心に行ったほうが良いと思いその仲間に入る。車は再び動き出す。地図アプリで現在位置を見ていると人民西路を走っている。どうも予約したユースホステル(青年旅舎)に近いところを通過しているので、急遽下車。歩いて坂道を登っていくと中国風の観光地としてデザインされたツーリズムエリアに宿はあった。

路上でのイチジク販売。漢人社会とは雰囲気が違う

 しかし、チェックインをしようとすると、いきなり「できない」と言われる。英語ができる受付係は経緯を丁寧に説明してくれた。ここでは、宿泊客の行動はどうも警察が管理しているみたい。僕は昨晩、タシュクルガンの宿に泊まっているが、どうもまだ今朝チェックアウトしたという報告なされていないので、ここでのチェックインのコンピュータにアクセスできないとのこと。道路での検問と言い、どうも僕の中国入国後の動線は政府のコンピューターで管理されているみたい。これからの行動にもいろいろ支障がありそう。警察などの質問に辻褄が合うようにしておかなくてはならない。 

 とにかく、宿の電話番号を教えて、チェックアウト報告をしてもらうよう依頼、荷物をフロントに預け、チェックインが完了するまでの時間を利用して少なくなってきた中国元を確保するため街に飛び出た。

 

 中国に入って3日目。やはりこの国の歩き方は、これまでのインド・パキスタンとは違うことを肝に銘じなければならなくなった。酒も飲めるし、食物にもバラエティーがある。道路交通条件もこれまでに比べて整っている。宿もある程度清潔に感じる。が、どうもこの国で僕のような気ままに一人でタビ人には少し息苦しい。

 まず、お金の支払いだ。この国のシステムはどんな田舎に行っても、スマートフォン決済が当たり前。以前、中国を縦断し日本まで陸路と海路でタイから帰国しているが、コロナ以降、感染防止や隔離政策の中で、その利用率はさらに高くなったようだ。

 もちろん現金が使えない訳では無いが、どうもスムーズにいかない。問題点は高額紙幣での会計だ。お釣りがないとかブツブツ言われ、時には商品を受け取れないこともある。ホテルや大きな商店ではクレジットカードが代用できるが、僕のタビではあまり関係ない。やはり雑貨屋での小物の購入や町の食堂で苦労する。これは予想されたことだ。だから今回のタビではAli Payアプリをスマホにインストールしておいた。以前は中国国内に通帳口座がないとこのアプリは利用できないと言われたが、最近は日本のクレジットカードにつなげば利用可能だと言われ、大丈夫だと思っていた。

 しかし、中国に入った初日、タクシュクルガンの食堂で試したが、利用できないと言われる。事前に使用可能かどうかタイで試せば良かったが事すでに遅し。カシュガルに入って、中国人の若者の助けをお願いしてアプリを修正しようとしたが、どうも認証がうまくいかずあきらめた。少々面倒くさいが、今回も以前のタビ同様現金支払いをするしかない。

 さて、少なくなった中国元を手元に持とうと、教えられた銀行街を歩く。最初はATMで現金を下ろそうとしたが、ATMの機械が見当たらない。よく考えたら当然だ。スマートフォン決済をするのにATMはいらない。余程のことがないと必要ないので見つからない。日本もそのうち維持経費のかかるATMが撤去される時期が来るのだろう。銀行前には両替するというマークがあるのに、受付では両替を「今はやってない」と数件の銀行で言われる。最後に中国銀行でやっと可能になった。しかし、両替カウンターはなく、一般業務の順番待ち。さらに書類作成が何枚もあり、両替だけのために2時間かかった。なんでだろう。これだけスマホ決済で便利になっているのに、銀行内業務の面倒臭さ。銀行も国からのコントロールが厳しいのだろうか。

 中国のスマホ決済は2社で行われている。国は銀行を通して個人の懐事情をほとんど確認しているはずだ。中国国内の金融統計データは信用されないとされているが、実態は確実に把握され、経済的な流れや動向をビッグデータでコントロールもできるに違いないと思うようになった。管理社会、恐ろしや恐ろしや。

 

 カシュガルに来て、もう2つ学んだ。一つは監視体制。街角のいたるところに設置されたカメラや宿泊先での警察登録だけではない。移動の度にパスポートを見せなければならない。民族問題を抱える新疆ウイグル自治区だけのことかもしれないが、いつでも見せれるようにポケットに入れておくが、命の次に大事なパスポート。失くならないようにいつも気にする必要がある。精神的に良くない。 

 3番目は、自分の足で歩くために、地図アプリの問題だ。使い慣れたグーグルマップが使えない。タイのSIMを使ってローミングしているのでなんとかGoogle系のアプリは使えるが、位置情報や地図が実際とは違う。最後の最後、目的地に到達できない。仕方ないので中国製アプリの「高徳地図」をインストールする。漢字なので大雑把には使えるが、検索での漢字入力に戸惑う。中国語でなんというのかわからないと簡単に探し出せない。インド、パキスタンの方が動きやすいし、両替も簡単だった。やっぱりなれないと息苦しい。

 銀行から青年旅舎に戻るとすでにチェックインができていた。ドミトリーの部屋やロッカーはすべて番号打ち込みで作動する。紙にメモしてもらったが、桁数が多く字が小さい。老眼の僕にはすこし辛い。シャワーを浴びて、夜まで一休み。

イスラム教徒が多い割には人影が少ないエイティガールモスク