toyotaidの日記

林住期をタイで過ごしています。ここをベースとした旅を綴ります。

インド・ミヤンマー辺境への一人旅④ Bodhhaya INDIA (Sorry only Japanese)

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やっぱり、牛は道路中央を歩く。僕が歩いたら車にひかれるだろう。


ブッダガヤ(つづき)

ブッダガヤで宿泊したゲストハウスは日本に長く滞在したインド人アジャイさんが経営していた。日本語が堪能で奥さんは日本人。今回のインドの旅で、最初にこのゲストハウスに3日間滞在できたことが、その後の旅を続ける上で大いに役立った。旅は非日常的。時としてハイテンションになったり、ストレスが貯まって疲れが出る。アジャイさんは日本人の感覚がわかっているのか、朝の到着時から、わりと自由に「放任」してくれた。インドで「放任」してもらうというのは、なかなか難しい。特に旅行者にとっては。目的地に着けば、「どこにいくのか?」、ぶらぶら歩いていれば、「どこから来たのか?」、観光地の前では、「これを買え、あそこに行かないか」と、とにかくフレンドリー過ぎて、すこし首を突っ込むと、こちらのことなど関係なしにまくし立てる。あれもこれも見たいという感覚はなく、ゆっくりマハーボディ寺院で瞑想でもできれば、という僕は、それほど駆け足で沢山の場所を訪れるという意気込みは無いから少々面倒くさい。とは言え、町を歩けば、車も気をつけなければならないし、路上の牛の糞も気になる。下痢でもしたら動けなくなるから飲食にもすこしは神経を使う。齢を取り、すこしボケてきたので、パスポートや貴重品を入れたショルダーバックも忘れないなどゆっくりしているようだが、やること考えることは沢山ある。そんな中、一人で歩き始める僕に対して、アジャイさんは予想されるトラブルを事前に説明してくれた。日本人の感覚で。

 その一つは、40年前になるが前回インドに来た時、街にあふれるいわゆる路上生活者あるいは乞食という人たちに接すると、その度にどのように対応してよいか迷った。まだまだ甘いも辛いもわからない二十歳すぎの僕は、毎日悩まされた。世の中不公平が多い。なんとかできないか。苦に遭遇し、真正面から考えた。そのことを思い出しながら尋ねた。「やっぱり貧困層はまだまだたくさんいますか?」インド滞在2日目にして、一気にインド全部を知ってしまおう、というなんと大胆な質問だと思いながら。

 「30−40年前ならいざ知らず、今のインドでは食べるだけなら問題ないと思うよ。政府がハリジャン(不可触民)も含めきちんと支援しています」とアジャイさんは説明したブッダガヤも観光地なので、門前町には、子供を連れた女性が口に手を当て、その後手のひらを差し出してくる。もの悲しそうな目付きでこのボディラングエッジに数度、遭遇した。タイのバンコクではこうした路上での物乞いは職業化していることは知っている。抵抗感無く対応できる。「インドもそうですよ」というアジャイさんの何気ない一言は、その後、訪れた街角で、かれらと遭遇する度に、蘇って来た。

 将来の経済大国と言われるインド、2018 年度の政府予算には、貧困対策として低所得層と農家への食料、肥料、石油の補助金の増額が盛り込まれている。これらの補助金は 3費目の合計で 2.6 兆ルピー(約4兆円)と、 2018 年度の歳出総額 の10.8%を占めており、予算のなかでも大きな支出項目である。3費目のなかでカギを握るのは、1.7 兆ルピーと 3 費目合計の 65%を占める食料の補助金。食料の補助金は低所得層に対し、1)カロリー摂取量の増加、 2)健康状態の改善、3)労働生産性の上昇という効果をもたらすと示されている。アジャイさんが言っているのもこれが根拠となっているのだろう。

 今年5月に行われた第17回インド下院総選挙は、モディ首相率いるインド人民党(BJP)が大勝した。BJP単独で下院議席数543の過半数を上回る議席を獲得し、下馬評を覆す圧勝となった。地方・農村票獲得を意識した現政権によるこうした貧困対策は、バラまき的な色彩が強く、その効果が現れたのかもしれない。いずれにせよ政府の政策が、貧困層、農民層を重視していることは伺える。

 「政府は良くやっていると思うよ、”ただし”」とアジャイさん。「こうした補助が彼らへの経済効果を生み出しているかは疑問。私の周りを見ると、少し余裕ができると酒を飲んだり、冠婚葬祭など生産性が無いことに支出している。それ以上努力したり、お金を回すことが無い」と日本で苦労した自身の経験を含めて、苦言を挺する。確かにそのとおりだ。

 しかし、一方で、「彼らがそれを望んでいるならそれも有りかも」と、僕は少し思った。インドという国はそれを許すほど、自然が豊かかもしれない。また宗教や文化が彼らの意識を支えているかも。教育、人づくりなどという開発のセオリーだけでこの国を見るのは止めたほうが良い。眼に入って来る光景を、自然の豊かさや宗教的な行動という視点に力点をおけば、もっと旅を楽しめるかもしれないという思いが頭の中で意識され始めた。

 夕方、ウイスキーを一緒に飲みながらアジャイさんは、大麻を求めてビートルズが訪れたこと、一緒にトランプをしたダライ・ラマの子供の頃、昔のブッダガヤのことをおもしろおかしく語ってくれた。ところで、インドには禁酒州なるものが存在する。このビハール州もそうだ。とはいえ、「どこでこのウイスキーを手に入れたの」という問に、「どこにも闇酒はあるよ」というアジャイさん。この情報は、酒好きの僕にとってはその後、訪れる同じく禁酒州の北東部のナガランド州とマニプール州でビールを購入するのに役立った。蛇の道は蛇。

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ビールは新聞紙に包んで販売される。