toyotaidの日記

林住期をタイで過ごしています。ここをベースとした旅を綴ります。

2023 古稀のバックパッカー⑪ チトラル・カラーシャ族(その2)

 パキスタンに入国して困ったのは、夕食にアルコールを嗜むことができないこと。 僕にとって、食欲増進剤でもあり、ゆっくり食事を楽しめる友でもあると思っている。しかし、パキスタン・イスラム共和国は「友」の同席を許してくれない。手強い。イスラムの世界と言っても、以前暮らしたインドネシアパレスチナは、宗教上の特別な日を除いてビールを確保することはそれほど難しくなかった。ここは、かなりイスラム原理主義に近く厳格な国だ、と諦めていた。

 食事はほとんど屋台や食堂を利用するが、一般の地元民がアルコールを飲む姿にまったく遭遇しない。おそらく都市部の高級ホテルのバーやレストランでは手に入れることができると思うが、このタビでそのような食事をする機会はまずない。

 そんなアル中気味の僕に、カラーシャ族のルンブール村訪問は、天国に来たような気持ちにさせてくれた。ワインや蒸留酒を村人が自分たちの手で醸造している。彼らはイスラム教徒ではない。異教徒(カフィール)と呼ばれる。

酒の蒸留器

ワイン用ぶどう


 ここの宗教は多神教。いわゆる一般的にはアニミズムと呼ばれるが、 たくさんの自然神がいるらしい。 日本人にとっては神道に似てると言った方がいいかもしれない。八百万の神のように自然の中にカミは宿っている。 そして、冠婚葬祭を始め、神への感謝の祭りや穢れを取り払う儀式が生活の規範として息づいている。 季節の変化に合わせた農耕民族独特の祭りも年に数度祭りが行われる。 そういった儀式を取り計らう上で自然の恵みの酒類は重要な役割を持っている。

神が宿る大岩

 カラーシャ族は、3つの谷に約4千人居住している。何世紀にもわたって現在のパキスタン北部のヒンドゥークシュ山脈の渓谷。外から影響されずに独自の宗教、風習、文化を貫いている。パキスタン側だけではなく国境を挟んだ隣のアフガニスタンのヌーリスタン州にもいたが、すでにイスラム教徒に改宗している(させられた?)。

 

 彼らの顔つきは、アジア人というより、色白なヨーロッパ人をイメージさせる。彫りの深い人の中には青い目をした人もいる。それゆえ人類学者、民族学者の興味は尽きない。紀元前2世紀、ギリシャアレキサンダー王がバクトリアを制覇したとき、連れてきた人の末裔とか? 長い間、歴史学者はこう言ってきた。


 謎に満ちた起源について、最近では、ミトコンドリアDNA検査(母系)を通してルーツをさがす生態学調査が関心を呼んでいる。いわゆるハプログループ(Haplogroups)。世界の人類は、以上のアルファベットのグループに大まかに分けられている。その下に小グループがある。

(参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Haplogroup

 

 現在の日本人を調べるとおおよそ祖先として10グループに分けられている。僕の場合は、Dグループに属する。中国、揚子江南部で生活していた。そして稲作文化を伝えた民族が祖先らしい。

 2016年に行われたカラーシャ族76 人の調査「パキスタンのカラシュ族におけるミトコンドリア DNA ハプログループの頻度分布 Frequency distribution of mitochondrial DNA haplogroups within the Kalash population of Pakistan」によると最も一般的なハプログループは H2a2a (西ユーラシア人) (23.68%) で、次に H4a1a と J1d3a (10.5%)、H2a3 (9.21%) が続いたと報告されている。西ユーラシアのH,Jがその大部分であることは確かだ。一方、76人から31のグループとの関連が見受けられ、高い遺伝的多様性があることを示している。つまり、この地で生活をするまで他の民族との関わりがあることや多民族との婚姻が予見される。他の調査では、新しいグループRも見つかっており、中央アジアからコーカサス地方が関係あるのではないかとも言われている。わださんは、「青い目のカラーシャは多分、三分の一ぐらいですね。インド系のカラーシャもいますよ」とコメントしてくれた。

夕方、農作業を終えて村に帰る老人と子供



 ルンブール村に入って、もう一つ気になったことは、男性に顎髭はないが、イスラムパキスタン人が普通に来ているシャルワールカミーズを着用していることだ。文化の変化が起こっている。 一方で女性はとても艶やかな独特の衣装を身につけている。カラフルなヘッドドレス、スカーフ、長いロングスカートをまとい、袖や裾には刺繍。日常的な衣装で、農作業する時も、炊事洗濯をする時もまとっている。僕が特に気になったのは、縫い付けられたタカラガイタカラガイの貝殻は丸みを帯びて光沢があり、装身具や儀式的な用途に用いたりする。インド洋を中心に亜熱帯、熱帯の海にあるこの貝といつ頃から女性たちは付き合うようになったのだろう。とても気になる。タイの山岳少数民族やインド東部山岳地帯のナガ族の衣装にもつけられていた。どこも海から遠く離れている。

 カラーシャ族の一番の特徴とも言える民族衣装を着飾る女性たち。しかし、「女たちはプラガタ(不浄)であるために、聖なるものと直接の接触をしないよう、日々の生活活動が制限されてきます。」とわださんは言う。次回は、女性たちの生活や観光産業について、見聞きしたことを綴る。(つづく)

女性のヘッドドレス。刺繍とタカラガイ

参考:カラーシャ族については、わだ晶子さんのブログをどうぞ

カラーシャ族とは/ About the Kalasha tribe - Kalasha カラーシャの谷-わだ晶子のページ